標治から本治へ ― 切り替えの判断軸


1. 症状の急性期と回復期

漢方では、症状の強い急性期にはまず標治(対症療法)で苦痛を和らげ、その後、回復期に入ったら本治(体質改善)に切り替えるのが基本です。

  • 急性期の目安:発症から数日~1週間程度、発熱や激しい痛み、吐き気などが持続。
  • 回復期の目安:症状が軽減し、生活や睡眠に支障が少なくなってきた時期。

2. 「証」の変化を見極める

漢方診断では、同じ病名でも患者の体質や症状の組み合わせ=「証」によって処方を変えます。

  • 標治で症状が和らいだあと、舌や脈、全身状態を再評価し、証が変化していれば処方も見直す。
  • 例:小青竜湯で花粉症の鼻水を止めた後、脾虚や気虚が明らかになれば補中益気湯など本治へ移行。

3. 慢性症状への移行サイン

急性症状が収まっても、疲労感、冷え、食欲不振などの慢性的な虚証が残る場合は、本治を優先します。
慢性期に標治ばかりを続けると、対症効果はあっても根本改善が遅れ、再発のリスクが高まります。


標本同治を選ぶタイミング

標治と本治を同時に行う「標本同治」は、以下の場合に有効です。

  • 急性症状と慢性体質が同時に存在
  • 季節性アレルギー+冷え性体質
  • 胃腸炎の嘔吐(標治)+長年の脾虚(本治)

例:小青竜湯(標治)+補中益気湯(本治)を同時投与し、症状の緩和と体質改善を並行。


臨床例

  1. 急性腰痛(ぎっくり腰)
     発症直後:芍薬甘草湯(筋痙攣を和らげる標治)
     痛みが軽減したら:八味地黄丸(腎虚改善の本治)へ移行
  2. 長引く咳
     急性期:麻杏甘石湯(咳・熱の標治)
     回復期:麦門冬湯(肺陰虚を補う本治)
  3. 生理痛
     発症時:桂枝茯苓丸(瘀血改善の標治)
     予防期:当帰芍薬散(血虚・冷え改善の本治)

まとめ

  • 急性期は「標治」で生活の質を守り、回復期や慢性期は「本治」で再発予防。
  • 「証」の変化を見極めて処方を切り替えるのが重要。
  • 慢性疾患や再発を繰り返すケースでは「標本同治」が効果的。

参考

  • 『最新・漢方実用全書』池田書店
  • 『基本がわかる 漢方医学講義』日本漢方医学教育協議会