標治と本治の実際的な応用

1. 急性症状での標治例

急性期は症状が強く、生活の質(QOL)を著しく低下させることがあります。この段階では「標治」を優先して、即効性を重視します。

  • 風邪(初期の寒気と発熱)
    → 葛根湯(かっこんとう)
    発汗を促し、表層にある邪気(外感)を追い出します。寒気・項背部のこわばりに即効性があります。
  • 花粉症の鼻水・くしゃみ
    → 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
    水っぽい鼻汁やくしゃみを抑え、アレルギー症状の緩和に向きます。
  • 胃腸炎の嘔吐・下痢
    → 五苓散(ごれいさん)
    水分の過剰や停滞を改善し、吐き気・下痢を速やかに鎮めます。

2. 慢性症状・体質改善での本治例

症状の背景にある体質や慢性不調には「本治」が有効です。

  • 冷え性で風邪をひきやすい体質
    → 八味地黄丸(はちみじおうがん)や真武湯(しんぶとう)
    腎陽を補い、冷えと免疫低下を改善します。
  • ストレスで胃腸が弱いタイプ
    → 六君子湯(りっくんしとう)
    脾胃の働きを高め、気力と消化吸収力を回復させます。
  • 繰り返す頭痛や肩こり(血流不良)
    → 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
    血の巡りを改善し、瘀血(おけつ)を取り除きます。

3. 標本同治の実際例

急性症状と体質改善を同時に行う方法です。
例えば、花粉症シーズンの患者に対して、

  • 小青竜湯(鼻水やくしゃみを抑える標治)
  • 補中益気湯(免疫や気力を高める本治)

を同時処方し、即時的な症状改善と長期的な体質強化を両立します。


4. 季節・年齢による応用の違い

  • 春(肝が昂ぶりやすい季節):イライラや頭痛が多ければ、抑肝散を本治的に使用。
  • 夏(湿邪の影響が強い):胃腸障害に平胃散を標治的に用い、湿を取り除く。
  • 高齢者:腎の衰えに伴う慢性不調が多いため、八味地黄丸や牛車腎気丸を本治に。

まとめ

  • 急性期は標治で症状を速やかに緩和。
  • 症状が落ち着いたら本治で体質を整える。
  • 状況によっては標本同治で両方に同時アプローチ。
  • 季節・年齢・生活習慣も考慮して処方を最適化する。

参考)

  • クラシエ薬品「漢方の基礎知識13『本治と標治』」
  • 一二三堂薬局「治病求本の原則」
  • ひのクリニック「標治と本治」
  • 漢方を知る「本治と標治」
  • 漢方基礎知識15「標治と本治」
  • kampoyubi.jp「標治と本治」