漢方における「標治」と「本治」


標治(ひょうち) — 対症療法の実践

「標治」とは、現在現れている主な症状——例えば痛み、かゆみ、鼻水、頭痛など——を直接緩和する対症療法です。急性期や症状が強い時には、まずこの標治を優先することが多いです。

たとえば花粉症では、鼻水やくしゃみといった不快な症状を抑えるために小青竜湯や越婢加朮湯などを用いますが、これらはすべて「標治」にあたります。

また、急を要する症状——例えるなら大出血などの場合——は、根本原因(本治)よりもまず目の前の症状を止めることが命を救うことにもつながります。この考えは「急則治標」と呼ばれます。


本治(ほんち) — 根本治療としての体質改善

「本治」は、根本的な原因にアプローチする治療であり、不調の背景にある体質や抵抗力を整え、病気になりにくい体づくりを目指す方法です。

例えば、毎年繰り返す花粉症の根源を改善したい場合、本治では「もともと花粉に敏感になってしまった体質」を再構築することに主眼を置きます。

また、症状が落ち着いてから本治に切り替えることで、翌年以降の花粉症が楽になるケースも多く報告されています。


標本同治 — 二本立ての治療戦略

漢方治療では、症状の緩和(標治)と体質改善(本治)を同時に行う「標本同治」という方法もあります。表面の症状と根本の原因が同時に存在する場合には、両者を並行して対応することで、効果的かつ持続的な治癒を目指します。


状況に応じた治療の選択

「標治」と「本治」のどちらを優先すべきかは、病気の状態や進行状況によって変わります。

  • 急性で症状が強い場合 → まず「標治」で速やかな症状改善を図る(急則治標)。
  • 慢性や体質に根差す症状 → 「本治」によって根本から体を整える。
  • 症状と体質の両方に課題がある場合 → 「標本同治」で2方向からアプローチ。

まとめポイント

項目標治(ひょうち)本治(ほんち)
目的現在のつらい症状を緩和する症状の元となる体質や根本原因を改善する
役割症状への即効性による救急的対応長期的な健康維持・病気の再発防止
使用のタイミング急性期や症状が強い時に優先される慢性期や体質改善を目指す時に用いられる
両者の併用「標本同治」により、症状緩和と根本調整を両立可能

参考)